Web 共済と保険2026年8月号
自然災害リスクとどう向き合うか
― 再保険と協同組合による分散のかたち ―(上)
■ はじめに
2026年1月、JA共済連はイギリス王室属領ガーンジー島に再保険子会社「Zenkyoren Re Limited(以下、Zenkyoren Re)」を設立し、同年4月より事業運営を開始しました。
Zenkyoren Reでは、「①海外自然災害リスクの受再(再保険※1 の引受け)」、「②JA共済連が保有する一部の共済事業からの内部再保険の引受け」、「③キャットボンド※2 への投資」という3本の柱により事業を行っています。
本稿では、特に「①海外自然災害リスクの受再(再保険の引受け)」に焦点を当て、この取り組みの背景として、私たちが長年向き合ってきた「自然災害リスクをどのように持つのか」という問いについて、改めて考えてみたいと思います。
※1 再保険とは、共済団体や保険会社が引き受けている共済・保険契約上の責任(リスク)の一部(または全部)を、国内外の他の保険会社等に移転する保険取引のことをいいます。
※2 キャットボンド(Catastrophe Bond)とは、自然災害が発生した場合に、投資家に支払う償還元本を保険金支払資金に充当する仕組みを持つ証券の一つです。
■ 自然災害リスクが集中する構造と問題意識
一般的に、海外再保険子会社の設立と聞くと、海外展開や収益機会の拡大といった観点から捉えられるかもしれません。長期的には事業としての安定性や収益性も重要ですが、今回の取り組みの出発点は、単なる海外展開や収益機会の拡大ではありません。
むしろ、自然災害リスクに対する向き合い方そのものを見直す必要があり、世界の協同組合・ミューチュアル組織(以下、協同組合)と協力しながら、これまでの取り組みをさらに発展させる枠組みを作れないかという問題意識にありました。
JA共済連の共済事業は、日本全国の組合員・利用者に対する「ひと・いえ・くるま」を中心とした保障提供を基盤としており、日本という自然災害が極めて多い国に根ざしています。
その中で、特に地震リスクについては世界的に見ても特異な水準にあり、私たちはこれまでも長年にわたり、建物保障の拡充等により組合員・利用者の支援に取り組んできました。
万一、日本に巨大地震等の不測の事態が生じた場合であっても、組合員やその家族に生じる経済的な損失を補い、生活の安定を支援することができるよう、建物更生共済という保障の仕組みを提供しています。
現在では、2025年度末(令和7年度末)時点で約135兆円という規模の保障共済金額を保有するまでになりました。そしてそれは同時に、リスクの構造やその水準が国内の特定の自然災害、主に地震に集中するという特徴を併せ持つ結果にもなっています。
しかしながら、このようなリスクの集中は、協同組合の性質からすればごく自然な帰結とも言えます。地域に根ざし、特定の産業を支えるという協同組合のあり方は、社会的に重要な役割を果たす一方で、リスクが特定の地域・分野に集まりやすいという側面も持ち合わせているためです。
こうした構造の中で、自然災害リスクをどのように持ち続けていくのか。この問いを強く意識する契機となったのが、2011年の東日本大震災でした。JA共済連はこの震災において、9,300億円を超える共済金を支払うこととなりました。
そして、それは多くの被災者の生活再建を支援することができた経験であったと同時に、その支払いの半分程度は再保険によって支えられていたことから、再保険が単なるリスク移転の手段ではなく、契約者に対する保障責任を最後まで履行するための重要な基盤であることを改めて認識する出来事となりました。
■ 震災の経験から見直されるリスクの持ち方
震災以降、私たちは再保険購入額を大きく拡大してきましたが、同時に、自然災害リスクに備える方法についても考え続けてきました。その中で気づいたのは、単に「リスクを減らす」という考え方だけではなく、「リスクをどのように持つのか」という視点を併せ持つことが重要だということです。
特定地域に著しく集積しているすべてのリスクを内部で抱えることも、すべてを外部に委ねることも、それぞれに限界があります。その中間にある選択肢を組み合わせながら、全体として持続可能な構造を構築していく必要があります。
実際の共済事業においては、契約者からの共済掛金を原資に各年度で異常危険準備金を積み立てることにより、将来に向けた内部の備えを確保しています。一方で、それでも対応が困難な巨大災害については、再保険を通じて外部とリスクを分担する仕組みが採られています。
このように、共済事業、特に自然災害を担保する建物保障は、内部で備える部分と外部と分かち合う部分の両方を適切に組み合わせながら成り立っているということです。この点は、(図1)によって補足的に理解していただければと思います。

注:契約者からの共済掛金により内部に異常危険準備金を積み立てつつ、それでも対応が難しい巨大災害については再保険により外部とリスクを分担する構造。
出典:JA共済連
■ 世界の協同組合でリスクを分かち合うという発想
こうした考え方は、近年の環境変化の中で、より重要性を増しています。気候変動やグローバル化の進展により、自然災害リスクは一層複雑化・多様化しています。各地域で異なるリスクが発生する一方で、それらが相互に影響し合う場面も増えてきました。
このような状況において、単一の地域の中だけでリスクを抱え続けることの難しさが改めて認識されており、この問題意識は日本国内にとどまるものではなく、世界の協同組合にも共通する課題として存在しています。
地域や産業に根ざした協同組合は、その本質ゆえにリスクを局所的に抱えやすい面があります。しかし、視点を外に広げてみると、それは同時に、リスクを分かち合う相手が多数存在することを意味するのではないかとも考えられます。
例えば、JA共済連は、1948年に北海道共済連を設立して共済事業を開始しましたが、地域農業や金融に起因する様々な危機に直面した結果、それを乗り切る手段として全国的規模の事業実施の必要性を認識し、各都道府県に共済連を設置し「農協-県共済連-全共連」の三段階(2000年の連合会一斉統合により現在は「JA-JA共済連」の二段階)体制で事業に取り組んできました。
このような歴史的な経緯を経て、私たちが共済事業を通じて日本各地の契約者のリスクを分かち合っているのと同じように、その考え方を国際的な協同組合のネットワークへ広げることで、世界各地の協同組合が抱えるリスクを相互に支え合うことができるのではないでしょうか。
2025年の国際協同組合年を契機として、協同組合同士の連携をより実質的なものへと発展させる機運が高まっています。
JA共済連もICMIF※3 などの国際的なネットワークの中で、これまで培ってきた再保険の知見や経験を踏まえながら、自然災害リスクのあり方についてどのように貢献できるのかを検討してきました。その中で導かれた一つの方向性が、リスクを国際的に分かち合う仕組みへの関与でした。
Zenkyoren Reの設立は、こうした問題意識の延長線上にあります。日本に集中する自然災害リスクについては、引き続き再保険市場を活用して外部と分かち合いながら、一方で日本とは異なる地域のリスクを一定程度引き受けることによって、リスクの持ち方そのものをよりバランスの取れたものにしていくことを目指しています。
また、その過程では、規模や地域性などの事情から十分な再保険手配が難しい協同組合に対し、リスク移転手段を確保しやすくなるよう支援できる可能性も見据えています。
自然災害リスクを「なくす」ことはできませんが、「どのように持つのか」を見直すことはできます。本稿でご紹介した取り組みは、その一つの試みとなります。
次回は、この考え方をさらに一歩進め、「自然災害リスクをどこに置くのか」という視点から、再保険の出再と受再の関係、そしてZenkyoren Reの具体的な位置づけについて見ていきたいと思います。
※3 ICMIF(International Cooperative and Mutual Insurance Federation)とは、世界の協同組合・相互扶助の保険組織を代表する国際的な連合体です。国際協同組合保険連合とも呼ばれ、国際協同組合連盟(ICA)の専門機関として設立され、協同組合保険運動の国際的な発展を支援しています。会員団体は200団体以上であり、JA共済連は最大規模の会員団体です。
(9月号に続く)