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Web 共済と保険2026年10月号

公益通報者保護法の改正点と共済団体に及ぼす影響

弁護士 黒田 純吉(くろだ じゅんきち)

 今回取り上げる「公益通報者保護法」が対象とする法律には、農業協同組合法をはじめ、水産業協同組合法や消費生活協同組合法、中小企業等協同組合法などの各協同組合法、また個人情報の保護に関する法律も含まれています。

 そのため、共済事業を行う協同組合(本記事の中では、「共済団体」といいます)においては、その組織運営上、本法の改正が及ぼす影響が少なからずあります。

 そこで、2025年改正の施行が2026年12月1日と近づいていることから、四谷共同法律事務所の黒田 純吉弁護士に、本法とその改正概要、また共済団体の実務への影響について解説いただきます。

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提供:執筆者

1.はじめに

(1)公益通報者保護法について

 企業や組織内で不祥事があっても、普通、なかなか表に出て来ません。それは、労働者がそれに気づいても、内部告発をすれば「裏切者」として解雇や降格などの報復行為をされるかもしれないと考え、黙ってしまうからです。

 その結果、不正が看過され、違法な営業活動によって被害を受けるのは、結局、一般の国民だということになります。

 そこで、内部告発をする公益通報者を保護し、社会経済の健全な発展のために、「公益通報者保護法」が2004年に成立しました。

 公益通報者保護法は、公益のために通報した者に対する解雇や降格等の不利益な取り扱いを禁止し、事業者からの損害賠償請求を禁止するほか、どこへどのような内容の通報が保護されるのかについて一定のルールを定めました。

(2)実効性強化のための改正

 その後2020年に改正が行われました。改正法は、常時使用する労働者が300人を超える事業者には、公益通報対応業務に従事する者を定め(従事者指定義務)、通報対応の体制を整備する義務を課すとともに、公益通報者に退職者及び役員を追加し、さらに外部通報の要件を緩和しました。
   
 しかし、それでも、内部通報制度が必ずしも十分に機能していない企業・組織が多く、通報者は不利益な取り扱いを受ける懸念から通報を躊躇する実態があると指摘されて来ました。
   
 そこで、2025年に2度目の法改正が行われ、本年12月から施行されることになりました。以下本稿では、その概要と、特に事業者の実務にどのような影響が及ぶかという観点からご説明します。

(3)公益通報とは

 本論に入る前に、まず、公益通報とは何かを整理しておきましょう。

 公益通報とは、①労働者が、②不正の目的でなく、③役務提供先における、④犯罪行為の事実又は過料の理由とされている事実等が生じ、又はまさに生じようとしている旨を、⑤通報すること、をいいます。

 大事なのは、④の事実です。これを「通報対象事実」と言い、公益通報者保護法では、「国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法律として別表に掲げるものに規定する罪の犯罪行為の事実」と規定しています。

 この「別表に掲げる」法律の中には、冒頭文にもあるとおり各協同組合法や、個人情報保護法も入っています。そのため、例えば、共済団体において、それらの法律で罰則が適用されるような誤った組織運営が行われたか、もしくは行われようとしている場合、当該事実は通報対象事実に該当することになります。

 一方、単なる社内規定違反などは、通報対象事実には該当しないとこになります。

 また、通報先と通報要件にも注意が必要です。通報先は3つあります。

 1つ目は、勤務先です。例えば勤務先の通報窓口や指定されている法律事務所などに対するもので、いわゆる内部通報です。これは、通報者が、通報対象事実があると信じていれば公益通報として成立します。

 2つ目は、当該違法行為について処分や勧告等を行う権限を有する行政機関、例えば、警察、労働基準監督署などに対する通報です。この場合、通報事実があると信ずるに足りる相当の理由が必要になります。

 3つ目は、報道機関、消費者団体、労働組合などです。この場合は、「内部通報すると不利益な取り扱いを受ける」、「証拠を隠滅されてしまうと信ずるに足りる相当な理由がある」などが必要です。公益通報と評価されるには、上の二つの通報先の場合に比較して、厳格な要件が求められます。

2.2025年改正

 今年12月から施行される2025年改正について、順に見て行きましょう。

(1)体制整備の徹底

 2020年改正法では、事業者に対し、公益通報対応業務に従事する者を定める義務(従事者指定義務)が規定されましたが、この義務違反につき罰則がなかったため、実効性がありませんでした。

 そこで、2025年改正法では、従事者指定義務違反がある場合、消費者庁は、勧告に従うよう命ずることや立入検査を行うことが出来るようになり、命令違反、検査拒否があれば、罰則が適用されることになりました。

 また、内部通報制度や窓口について、従業員が認識していないケースが多いため、事業者は、整備した通報対応の体制について従業員に周知すべきことが新たに明記されました。

(2)公益通報者の範囲の拡大

 2020年改正法では、公益通報者は労働者、退職者、役員とされていましたが、2025年改正法では、フリーランス、つまり業務委託関係が継続する特定受託業務従事者が追加されました。

 フリーランスは、雇われ人ではなく個人事業主ですが、取引先の不正を知り得る立場にある一方、取引先の不正を通報すれば、取引を切られたり報酬を減らされたりする可能性があります。そのような不利益な取り扱いを禁止する必要が出て来たわけです。

(3)公益通報妨害・通報者探索の禁止

 2025年改正法では、事業者は、正当な理由なく公益通報行為を妨害する行為が禁止されます。例えば、公益通報をしない旨の合意を求めることとか、公益通報をしないことを条件に退職金を支払う合意をすることなどは、無効とされることになりました。

 また、正当な理由なく公益通報者である旨を明らかにするよう求めること、誰が通報者であるかを探索することが禁止されました。つまり、公益通報は基本的に匿名でもよく、誰が通報したかを追求されないのです。

(4)不利益な取り扱いの抑止・救済強化

 事業者は、公益通報をしたことを理由に労働者を解雇したり、降格等の不利益な取り扱いをすることは禁止されていますが、不利益を受けた場合、労働者としては、訴訟を起こすことが考えられます。

 その場合、労働者は、当該不利益が公益通報をしたことによるものであることを立証しなければならないのですが、それはかなり難しいのが実情です。なぜなら資料はすべて事業者が持っているからです。

 そこで、2025年改正法は、通報から1年以内に行われた解雇及び懲戒は、公益通報を理由とするものと推定することにしました。

 これにより事業者は、その推定を覆すため、解雇や懲戒処分が公益通報とは無関係であることを積極的に立証しなければならなくなりました。立証責任の転換です。立証できなければ、公益通報を理由とする解雇又は懲戒であると認定されます。

 そして、更に重要なことは、そのような公益通報を理由とする解雇及び懲戒に対しては、単に民事上無効と判断されるだけでなく、犯罪として処罰されることになったことです。公益通報を理由とする解雇及び懲戒につき実質的な意思決定を行った者には、6月以下の拘禁刑が科されます。

 また、事業者(法人)に対しても3000万円以下の罰金及び事業者に罰金が科されることになりました。

3.共済団体の実務への影響

 さて、以上の2025年改正が、具体的に共済団体の実務にどのような影響を及ぼすのかを見てみましょう。

(1)従事者指定と周知徹底

 まず、体制整備義務※1 として、従事者指定義務があります。
 形だけの従事者指定では、法の求めに応じたことにはなりません。内部通報の受付や調査を行う従事者がきちんと指定されていて、書面や電子データによって客観的に記録されていなければなりません。

 しかし指定された従事者は、罰則付きの守秘義務を負い、微妙な組織内トラブルに触れることにもなるので、精神面では相当な負担になるかもしれません。共済団体はそのサポートを十分に行う必要があるでしょう。

 また、内部通報を受け付ける体制が整備されていることを、様々な機会をとらえて労働者に周知徹底しなければなりません。そうしなければ、内部通報は埋もれたままになってしまいます。

※1 常時使用する労働者が300人を超える共済団体は義務となります。300人以下の共済団体は、努力義務となります。

(2)フリーランスへの不利益禁止

 上記のように、公益通報者の範囲が拡大して、フリーランスも含まれることになりました。そこで、フリーランスによる通報があった場合、業務委託契約を解除したり、取引数量を削減したり、報酬を減額するなどの行為は明確に禁止されます。

(3)通報者探索・通報妨害行為禁止の徹底

 上記のように、通報者探索行為・通報妨害行為が禁止されましたので、共済団体は、内部通報規定を改定して、これらを禁止する規定を設けなければなりません。また、徹底した研修も必要でしょう。

 しかし、組織に不都合な通報があれば、通報者はいったい誰なのか、と探し出したくなるのが心理というものです。でも、これをしてしまっては、当該通報者に対して威圧感、不安感を抱かせ、他の従業員には萎縮効果を与え、結果的には内部通報制度自体を形骸化させてしまいます。これをしないことを組織的に保障しなければなりません。

(4)人事・懲戒手続と公益通報対応の峻別

 2025年改正が共済団体に及ぼす最も大きな影響は、公益通報による不利益な取り扱いに対する制裁の強化です。

 立証責任が転換された結果、共済団体が解雇や懲戒処分が公益通報を理由としたものではないことが立証できなければ、その解雇や懲戒処分が無効と判断される可能性があります。

 そこで、共済団体はどのような対応を求められるのでしょうか。

 まず、第一に、懲戒などの人事手続きと公益通報対応を明確に区別しておかなければなりません。公益通報に関する情報は、公益通報対応業務従事者が厳格に管理し、人事・懲戒部門とは共有しないことが重要です。

 次に、公益通報とは無関係な解雇・懲戒処分であることを明確にするための客観的な記録あるいは資料などの証拠の保存が必要となります。

(5)公益通報に該当しない場合の問題

 最後に、公益通報者保護法が定める要件に該当しない通報、例えば通報対象事実にはあてはまらない不正行為の通報や、マスコミ等への通報要件を満たさない通報が行われた場合、どのようになるのでしょうか。

 そのような通報でもそれが直ちに違法となるわけではありません。従ってその通報者に対する解雇等の処分が当然に許されるわけでもありません。共済団体はこの点にも注意が必要です。

 現行公益通報保護法には、労働者契約法その他の法令による通報者保護の適用を妨げるものではないとの解釈規定があり、2025年改正法もこれを踏襲しています。従って、通報者に対する解雇や懲戒処分が権利濫用により無効であると判断される可能性もあります。

 また、労働基準法、労働安全衛生法、男女雇用機会均等法などには、行政機関への一定の申告を理由とする不利益な取り扱いを禁止する規定があります。

 こうして、公益通報者保護法の根底にある通報者保護の考え方は、通報者に対する不利益処分に関する他の法令の解釈においても、大きな意味を持つものと考えておくべきでしょう。

4.おわりに

 以上のように、2025年改正法は、企業・組織の実務に大きな影響を及ぼすものです。
 従って、形だけの対応をしていては、風評リスクを大きくすることになります。

 組織のトップとしては、組織内に不正があれば、恐れることなく指摘してもらうことが、組織の透明性を高め、結果的に社会的評価を高からしめること、その意味で、正当な公益通報は賞賛に値すべきものではあっても、非難の対象ではないことを、明確なメッセージとして組織内に発信することが最も重要ではないでしょうか。

 そして、公益通報制度が適正に機能するための組織的体制を整備する覚悟が求められています。

■執筆者プロフィール

黒田 純吉(くろだ じゅんきち)
1949年東京都生まれ(76歳)
第二東京弁護士会所属
四谷共同法律事務所
全国労働者共済生活協同組合連合会 顧問弁護士
趣味:茶の湯、庭師

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提供:執筆者

公益通報者保護法の改正点と共済団体に及ぼす影響弁護士黒田順吉くろだじゅんきち