Web 共済と保険2026年7月号
カナダの協同組合運動とフェアトレード(第2回)
―ジャストアス!珈琲焙煎組合の歩み―
1.はじめに
「ジャストアス!コーヒー焙煎組合(Just Us! Coffee Roasters Co-op)(以下「ジャストアス!」)」は、カナダで最も成功したフェアトレード団体の一つとして広く知られています。
今回は、ステイシー・バーン/エロール・シャーペ著『労働者協同組合とフェアトレード―地域と世界をむすぶ連帯ビジネス』(北野収訳・解説、彩流社、2026年1月刊)をもとに、前回取り上げたアンティゴニッシュ運動の精神を継承した労働者協同組合としてのジャストアス!の歩みを概観します※1。
カナダでは、「協同組合法」という単一の法律によって協同組合が規定されています。少々古いデータではありますが、1998年の数値では、計算上、カナダ人の半数以上が1つ、あるいは複数の協同組合に加入していることになります※2 。
協同組合は3人以上の組合員によって設立され、カナダ協同組合法は労働者協同組合を「第1の目標が組合員に雇用を提供することであり、かつその支配が組合員に属する企業を運営する協同組合」と定義しています※3 。
カナダの労働者協同組合には、日本でいうところのベンチャー企業の受け皿としての性格が色濃く認められます。
※1 本稿の情報は、特記あるもの以外は原則として拙訳著と訳者解説を参照している。
※2 Brett Fairbairn. "Introduction: Where We Stand." In Brett Fairbairn and Nora Russell eds. Co-operative Canada. UBC Press. 2014.
※3 大谷正夫(1999)「カナダ協同組合の歴史と現況」『カナダ協同組合法』協同組合総合研究所海外労働者協同組合法研究グループ、2ページ。
2.誕生:創業者5人の出会い
ジャストアス!は、ウルフビルという大学街で5人の仲間(ムーア夫妻、マンデル夫妻、その友人1人)が出会ったことから始まりました。
ジャストアス!の使命は、「利潤よりも人間と地球を優先する(people and the planet before profits)」という当初からのスローガンに込められています。
ジェフとデブラのムーア夫妻を中心とする5人は、それぞれ障がい者福祉や地域活動の経験を持っていました。
一方で、コーヒーやフェアトレードの専門知識はありませんでした。
ジェフ・ムーア氏は、アフリカやラテンアメリカの生産地訪問を通じて、現地の高品質な生豆と、生産者の困難な現実を知りました。
また、メキシコのチアパスでは先住民の伝統的な有機栽培や、仲買人(コヨーテ)による低価格取引、北米自由貿易協定(NAFTA)による農地・市場の圧迫といった構造的問題を知りました。
ムーア夫妻がかつて関わっていたカトリック系の障がい者支援施設で培った、共生や社会正義の理念は、彼らの価値観と実践の基盤となりました。
障がいを持つ人々の尊厳と参加を重視する活動経験が、その後の協同組合づくりに影響を与えたのです。
輸入や焙煎をめぐる試行錯誤、外部焙煎業者との交渉、地域団体との連携を経て、1996年に労働者協同組合として「ジャストアス!珈琲焙煎組合」が正式に発足しました。
設立当初は資金や技術が乏しく、手作業でのラベル作りや外部委託に頼るなどの苦労が続きましたが、地域からの支援や学びを通じて焙煎技術と流通体制を確立し、フェアトレード商品を拡充していきました。
組合名の「ジャストアス!」には、「私たち自身」「生産者」「世界の正義」を重ねた多義的な意味が込められています。
3.拡大路線から地域密着路線へ
ジャストアス!は創業当初こそ多くの困難に直面しましたが、焙煎・卸売に加え小売やカフェ、チョコレートや砂糖へと事業を急拡大し成功を収めました。
しかし、この急成長は創業メンバー5人の間に深い溝を生む要因ともなりました。当初はジェフ・ムーア氏とデビッド・マンデル氏の共同代表制をとっていましたが、1990年代末にはデビット・マンデル氏の単独代表となりました。
5人ともフェアトレード理念を強く掲げ、⼩規模⽣産者への⽀援を最優先に考えました。しかし、ムーア夫妻と他の3⼈とは事業規模や進め⽅に対する考えが⼀致せず、意思決定や資金調達、雇用拡大をめぐって対立が生じました。
特に雇用職員を組合員に迎える時期や、途上国生産者との関わり方をめぐって意見が分かれました。
その後、ジャストアス!は成長路線を選び、ムーア夫妻のリーダーシップのもとで事業を進めることとなりました。
事業の拡大に伴い、ニューミナス(本部とカフェ1号店があった自治体名)の施設が手狭となりましたが、自治体からの増築拒否や、銀行融資の制限などの問題に直面しました。
内部でも拡張の是非をめぐり意見が分かれましたが、2000年にグランプレ(自治体名)近郊の物件を購入し、そこを新たな拠点としました。
さらに、アトランティック・スーパーストアでの取り扱い開始により、販売網は急拡大しましたが、メインストリーム市場への進出をめぐっては、内部に価値観の違いが残りました。
そして2000年代前半までに、ムーア夫妻以外の3人はジャストアス!を離れることとなりました。
事業の急成長に組織体制が追いつかず、会計・管理面での不備が露呈してしまい、コンサルタントの助言を受けて事業計画を再構築しました。
資金調達ではコミュニティ経済開発投資基金(CEDIF)を活用し、短期間で資本を集めることで、倉庫拡張と銀行融資の改善に成功しました。
一方、外部投資家の増加により協同組合としての組織構造に揺らぎが生じたことから、従業員投資家と非従業員投資家を分けるため、フェアトレード投資組合(JUFTIC)が設立されました。
同時期、コーヒー生産ラインを拡充し、世界の小規模生産者と直接関係を築きながら商品を多角化しました。
フェアトレード認証導入時にはコスト負担の議論もありましたが、最終的には理念を優先することとしました。
砂糖・チョコレート・茶葉などにも事業を広げる一方、カフェ事業は地域の交流拠点としてフェアトレードの普及に貢献しました。
しかし、遠く離れたトロントへの2店舗出店については、経験不足のパートナーとの協働や距離の問題から破綻してしまい、多額の負債を抱えての閉店となりました。
この失敗は州外進出の危険性を示し、地域密着型への方針転換につながりました。最大8店舗あった小売店は現在2店舗に縮小され、別の形でアウトリーチを行っています。

撮影:筆者
4.適正経営規模と参加型民主主義の模索
ジャストアス!は創業以来、労働者協同組合として運営されてきましたが、「南(グローバル・サウス)」の共同体文化に根ざしたUCIRI組合(フェアトレード認証制度の発祥団体、次回に取り上げます)とは異なり、「北(グローバル・ノース)」の個人主義社会では協同組合づくりは大きな困難を伴いました。
資本主義的価値観の中で育った「北」の労働者は、協同組合への主体的参加や責任意識が十分ではありませんでした。
ムーア夫妻は、協同組合員になることの意味や社会的企業としての使命を理解してもらうため、教育と忍耐を重ねる必要がありました。
理念は「利潤よりも人間と地球を優先する」ことでしたが、組織を持続するためには健全なビジネス運営が不可欠であり、その両立には常に試練を伴いました。
事業の成長に伴いコンサルタントを雇用しましたが、外部から持ち込まれた企業的マネジメント文化が、協同組合の価値観と衝突しました。
このような経緯から、2011年には経営責任者を置かない水平的組織へと移行し、デブラ・ムーア氏がゼネラルマネージャー(GM)に就任しました。
組合員制度も厳格で、フルタイム勤務や出資、研修など高い条件が課され、民主的審査を経て加入が認められました。こうした挑戦を重ねながら、ジャストアス!は協同組合文化を育てていきました。
組織への参加・参画を定着させることは、ジャストアス!にとって大きな課題でした。従業員には、ビジョンへの理解や責任、組織全体に関与する姿勢が求められましたが、多くの者は理想と現実のギャップに戸惑い、意思決定の仕組みを理解するまでに時間を要しました。
組織文化の形成には10年以上の歳月を要し、参加型の意思決定を実現するためには教育が不可欠でした。資本主義的な職場文化に慣れた人々にとって、自ら提案することは決して容易ではなく、協同組合文化への転換には継続的な支援が必要でした。
こうした試行錯誤を重ねる中で、組合員が主体的に組織をつくる文化が、徐々に築かれていきました。
中でも最大の課題は、「参加型民主主義」を職場文化として根づかせることでした。従業員だけでなく経営側も「参加とは何か」を学び直す必要があり、上司は「命令をする存在」から「現場の声を引き出す役割」へと転換することを求められました。
デブラ・ムーア氏はこの点で奮闘しましたが、ときには不協和を生むこともありました。当時は誰も協同組合運営の経験がなく、参加型会議も思うように機能しなかったため、学びと試行錯誤が続きました。
会議や対話に多くの時間を費やしたものの、組合員と非組合員の間には参加機会の格差が残りました。特に現場の末端で働くカフェ従業員は「自分達の声が届かない」ことを不満に感じていました。
こうした中で労働組合結成の動きが生まれ、最終的に設立が承認されました。また、解雇された従業員も再雇用されました。これらのことが、協同組合と労働組合が共存し、より良い職場づくりを目指す転機となりました。
フェアトレードは革命ではなく、公正な社会を築くための小さな積み重ねであり、既存の権力構造を変えるための条件づくりでもあります。ジャストアス!は民主的運営を強化しつつ、非組合員の声にも耳を傾ける方向へと進んでいます。
ムーア夫妻の退任後は、組合員が主体的に未来を形づくる段階に入り、正義と連帯を基盤とした組織づくりが今も続いています。

撮影:筆者
5.創業者の引退と新体制の開始
ムーア夫妻がジャストアス!の経営から退き、現GMジョーイ・ピトエロ氏へと経営が移行するまでには、4つの難しい局面がありました。
第1に、2017年頃に外部コンサルタントを招いて移行計画を作ろうとしましたが、協同組合文化への理解が乏しかったことから、ムーア夫妻と対立することとなり、この計画は頓挫しました。
第2に、ムーア夫妻が他の協同組合の友人2名に事業譲渡を提案しましたが、組合員全員が反対したため、これも失敗に終わりました。
第3に、2009年に入職した現場から叩き上げのピトエロ氏が2016年にGMへ就任しました。同氏が従業員から「仲間」として信頼されていたことが、経営移行を前進させる要因となりました。
第4に、組合員がデブラ・ムーア氏へ理事長退任を求め、彼女もこれを受け入れ、2021年に退職しました。
ジャストアス!に長年助言してきたコンサルタントのピーター・ハフ氏は、小規模組織の世代交代の課題として、創業者の心理的負担への理解、段階的な移行、属人的知識の継承コスト、後継者発掘の困難さ、小規模ゆえの意思決定の透明性を指摘しています。
特に、創業者が理由を説明しないまま意思決定を続けてしまうと、従業員の主体性が育たないため、意思決定の透明性が不可欠であると述べています※4。
ピトエロ氏は、「世代交代には痛みを伴ったが、最小限に抑えることができた。」と語っています。自身は管理職志向ではありませんでしたが、仲間からの信頼に後押しされてGMを引き受けたといいます。
今後の課題として、①より良い職場づくり、②売上拡大、③地域の手本となる最高のカスタマーサービス、④利益重視から幸福・健康・レジリエンス重視への転換を挙げています。
また、店舗拡大より既存店の質向上と販路の拡大を重視し、フェアトレードより生産者との関係に軸足を移していきたいとの意向も示しています。
さらにノバスコシア州の地域農業との連携にも力を入れ、地域への供給や精神的健康への貢献を目指しています※5。
直近の改革として、小売パートナー・プログラム部門が設置され、地域経済と協同組合運動の発展のために小規模ビジネスのネットワークづくりが始まりました。
これを通じて、ノバスコシア州でカフェを起業したいと考えている個人に対して起業支援という形で、直営小売店舗とは異なる形態での販売と信頼の拡大を図っています※6。
引退するにあたり、ジェフ・ムーア氏は「私たちがジャストアス!を始めた時、素晴らしい贈り物をいただきました。私たちはその贈り物を受け取り、宝物としてずっと大切にして、上手に育つよう最善を尽くしました。[...]この宝物を皆さんに譲り渡す時が来ました。[...]皆さんの仕事は既に始まっています。」と述べ、引退後に現役時代を振り返って「私たちはパーフェクトではなかったけれども、部分的には優れていた」と回想しています。
その後、デブラ・ムーア氏も理事から退いたことで、二人は完全に「引退」しました。
※4 協同組合総合研究所海外労働者協同組合法研究グループ「カナダ協同組合法」協同組合総合研究所、1999年、189ページ。
※5 ピトエロ氏、インタビュー、2019年3月19日。
※6 www.justuspartners.ca(2023年4月14日閲覧)
6.就労の場としてのジャストアス!
ジャストアス!では約50人(非組合員カフェスタッフをいれると80人程度と推察)が働いており、組合員採用では協同組合の哲学の理解が重視されています。学歴より価値観や経験を尊重し、誇りをもてる配置や昇格が行われています。
たとえば、元家具職人のケリーさんは契約社員から組合員となり、研修を通じて協同組合の理念を学び、コミュニティとしての一体感を感じています。
品質管理主任のジャニスさんは地元の大学では化学専攻で、焙煎や生産地訪問を担当し、全組合員に焙煎研修を受けてもらうことを重視しています。
元漁師のチャールズさんは運転手から梱包、焙煎へと異動し、自身の価値観に合う仕事として長く働きたいと語っています。
生産部門は3人体制で、稼働率に余裕を持たせ、週4日勤務を基本としつつ柔軟な働き方を可能にしています。
管理部門のキーリーさんは高校卒業後に就職し、「ジャストアス!は大学に行かずとも学べる場」だと感じているといいます※7。
※7 日時は異なるが、それぞれ2019年3月のインタビュー。
このように、管理職以外は週休3日制(金・土・日)で働いていますが、それでも州の平均賃金より6%程度高い賃金が支払われています。なお、1日の勤務時間は8~10時間です。
福利厚生では、組合員には12カ月の育児休暇があり、給与の75%が保証されています。健康保険はフルタイム職員全員に適用され、2019年からは年金制度も導入されました。
ジャストアス!は公正な価格、民主的管理、環境配慮、コミュニティづくりを掲げ、コーヒーを人間の尊厳と関係性をつなぐ存在として捉えています。

撮影:筆者
7.むすび
ウルフビルという小さな学園都市で出会った5人が蒔いた一粒の種は、いまやアフリカ、アジア、ラテンアメリカへと広がる、約80人規模のグローカルな連帯ビジネスへと成長しました。
かつては小売店舗の出店拡大による表面的な成長を模索した時期もありましたが、現在は本部(グランプレ)とウルフビル以外には小売店舗を持たず、州内大学の学生食堂やカフェ、ファーマーズマーケット、若者のカフェ起業支援といった、地域密着型の事業へと再編されています。
そして何より、卓越した創業者であったムーア夫妻から若い世代の後継者へとバトンを渡すという、組織にとって最も難しい転換点を乗り越えたことは特筆に値します。
ジャストアス!は、地域に根ざしながら世界とつながるという独自の歩みを続けていきます。
次回は、ジャストアス!の兄弟団体ともいえるメキシコのUCIRI組合と、そこから広がったコーヒーのフェアトレード運動、さらにそれらの背景としての解放の神学について取り上げます。
(8月号に続く)
■執筆者プロフィール
北野 収(きたの しゅう)
獨協大学外国語学部教授、大地の大学日本校副代表、専門は、国際開発論、連帯経済論、食料農業問 題。コーネル大学Ph.D.、元農林水産官僚。
主な著書に『私の中の少年を探しに―ーある「農学者」が回想する昭和平成』(デザイン・エッグ、2024 年)、 『南部メキシコの内発的発展とNGO』(勁草書房、補訂版2019年)、『人新世の開発原論・農学原論』(創成社、新装版2024年)など、 訳書にフランツ・ヴァンデルホフ『貧しい人々のマニフェスト』(創成社、2016年)、アルトゥーロ・エスコバル 『開発との遭遇』(新評論、2022年)などがある。