協同組合と共済事業の発展をめざし、調査・研究、教育・研修、広報・出版活動のほか、共済相談所として苦情・紛争解決支援業務を行っています。
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Web 共済と保険2025年7月号

労働者協同組合とは何か―みんなでつくる協同組合の実践(上)

駒澤大学経済学部教授
松本 典子(まつもと のりこ)

1 .労働者協同組合とは?

 労働者協同組合(Worker Cooperative)は、一般的に、そこで働く人々が所有し管理する協同組合と定義されます。
 日本では、1980年代から、「ワーカーズコープ」(日本労働者協同組合連合会関連の労働者協同組合)や「ワーカーズ・コレクティブ」(生活クラブ運動を基礎にした労働者協同組合)といった形で、その事業や運動が展開されてきました。そして、その運動の成果の1つとして結実したのが、労働者協同組合法(以下、「労協法」)です。2020年12月4日に成立し、2022年10月1日に施行されました。
 労協法ができるまでは、ワーカーズコープやワーカーズ・コレクティブは、NPO法人、一般社団法人、中小企業等協同組合法に基づく企業組合、さらには、株式会社や合同会社といった多様な法人格を活用してきました。しかし、非営利目的かつ出資が可能という、労働者協同組合の本質に合致した法人格が存在しなかったため、法人格はとらずに任意団体として運営する組織も少なくありませんでした。日本では「法人格=信頼」という風潮が根強く、法人でないことが事業のハードルになることも少なくありません。だからこそ、非営利目的で出資も可能な法人格が法律で認められたことは、非常に大きな意義をもっています。

2 .労協法がもたらす社会的インパクト

 何よりも重要なのは、「労働者協同組合」という名前を冠した法律が日本ではじめて成立したことです。この点は、かつてのNPO法人にも通じます。NPO法が施行した30年ほど前は、「NPOって何?」という反応が一般的でした。20年前に大学で非営利組織論を教え始めた頃も、NPOは大学生にとって新しい存在でした。しかし、今では、学校教育や地域のボランティア活動の場でも、NPOが身近な存在になっています。こうした変化を思えば、労働者協同組合も、これから30年のうちに日本社会に広く根付いていくことが期待できます。
 また、労協法では、法人設立にあたって準則主義を採用しています。これは、行政の認可・認証を必要とせず、法務局への登記のみで法人設立ができる仕組みです。この制度によって、誰もが気軽に労働者協同組合を立ち上げられるようになりました。したがって、これまで日本では、起業する際に「協同組合」という法人格は一般的ではありませんでしたが、今後は、株式会社や一般社団法人と並ぶ起業の選択肢としての可能性が拓けたといえます。

<コラム>

 2025年2月に、中央経済社より『労働者協同組合とは何か―連帯経済とコモンを生み出す協同組合』という本を出版しました。

▶︎書籍の詳細はこちら
  https://www.biz-book.jp/isbn/978-4-502-52711-1

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キャプション:出版した本の表紙

 単著の執筆ははじめてだったので、出版前は「果たして手に取ってもらえるだろうか...」と不安な気持ちもありましたが、出版後は、実際に労働者協同組合の実践をされている方々に手に取ってもらえたり、素敵な感想をいただくことが多く、気持ちが大きく変わりました。いまはこの本を通じて、労働者協同組合の楽しさや、実際に取り組む上での難しさを、立ち上げを考えている人や、まだその存在を知らない人に伝えつつ、協同組合という言葉を広げていきたいと考えています。

 執筆を通じて感じた心の変化については、noteで連載中です。ぜひこちらもご覧いただけると嬉しいです。

▶︎note「出版してわかったあんなことこんなこと」
  https://note.com/tenzemi/m/m79dd8ea5d470

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キャプション:noteの連載の表紙

3.労働者協同組合法はどんな法律?

 労協法が施行されてから、まもなく3年が経とうとしています。厚生労働省のウェブサイトでは、労協法人の設立状況が不定期に更新・報告されています。

▶︎厚生労働省ウェブサイト「労働者協同組合」
 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_14982.html

 同サイトによれば、労協法に基づき設立された法人は、2025年6月1日時点で1都1道2府31県において合計153法人です。その内訳は、新規設立が117法人、企業組合からの組織変更が26法人、NPO法人からの組織変更が10法人となっています。
 労協法人は、「多様な就労の機会を創出」することと「地域における多様な需要に応じた事業」を実施することにより、最終的に「持続可能で活力ある地域社会」の実現を目的とする法人です(労協法1条)。従来の協同組合法の多くが、組合員の相互扶助、すなわち「共益」を主たる目的としてきたのに対して、労協法は、持続可能で活力ある地域社会の実現という「公益」を明確な目的として打ち出した点に特徴があります。また、労協法人は営利を目的としないことが謳われています。すなわち、非営利目的(3条3項)であることを意味します。
 労協法人の基本原則(原理)は以下の3つです。

  ① 組合員が出資すること

  ② その事業を行うに当たり組合員の意見が適切に反映されること

  ③ 組合員が組合の行う事業に従事すること

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▶︎厚生労働省ウェブサイト「知りたい!労働者協同組合法 労働者協同組合法とは」
 https://www.roukyouhou.mhlw.go.jp/about

 以上の目的と基本原則に加えて、労働者派遣事業以外のあらゆる事業ができる(7条2項)、準則主義で簡単に設立できる(26条)、3人の組合員で設立できる(22条)という特徴があることから、労協法人の「機能面」に魅力を感じ、従来では考えられなかった組織が生まれ始めています。

4.労働者協同組合法による新たな事例

 厚生労働省のウェブサイトには、労協法人を取得した事例が多数紹介されていますので、ぜひご覧いただければと思います。

▶︎厚生労働省ウェブサイト「知りたい!労働者協同組合法 好事例一覧」
 https://www.roukyouhou.mhlw.go.jp/good_cases_all

 厚生労働省(2025)によれば、新たに設立された労協法人の役割として、以下の4つがあげられています。

  ① 副業・兼業という働き方(本業を持ちながらも、仲間と協力しながら、自分らしく働く場をつくりたいというニーズによる設立)

  ② 自治会や地域おこし協力隊による地域コミュニティ活性化(自治会や地域おこし協力隊を中心に、地域の困り事解決のため、地域づくりを仕事にしたいというニーズによる設立)

  ③ シニア世代の健康や生きがい・仕事おこし(企業や組織の退職後の生きがいを感じながら元気に仕事をしていきたいというニーズによる設立)

  ④ ケアワーカーによる自分らしいケアの追求(障害者福祉や高齢者ケアの専門職から、志を同じくする仲間とともに、自分たちで運営にも関わりながら自分たちが本当にやりたいケアを行いたいというニーズによる設立)

 これまでの労働者協同組合は、子育て、高齢者介護、障害者支援や若者支援など、福祉分野での事業が多く、労働者協同組合の仕事に専業で従事している人も多いという特徴がありました。
 それに比べて、労協法施行後に新たに設立された労協法人の中には、副業・兼業で仕事づくりに取り組むケースや、地域おこし協力隊が郊外や地方で仕事を生み出すケースも増えています。
 たとえば、Camping Specialist労働者協同組合は、三重県四日市市を拠点に、荒廃山林を整備して魅力あるキャンプ場に変え、日々のキャンプ場運営も行う協同組合です。本業をもつキャンプ好きの仲間たちが、2021年からNPO法人によって活動をスタートしましたが、利用者の増加にともなって、運営に関わる仲間も次第に増えていきました。活動が広がる中、価値観を共有できる仲間と共に働きたいという気持ちが芽生えたメンバーによって、NPO法人とは別に、2022年10月に労協法人が設立されました。キャンプ場の運営や野外活動を通じて、地元の荒地を持続可能な愛される土地に変え、多様な仕事も生み出すことによって、あらゆる人々に価値を創り出すことを目指して活動が続いています。Instagram(https://www.instagram.com/oretachino_camp/)で気軽に予約ができたり、日々細やかに情報発信がなされることで、利用者は増えています。

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キャプション:三重県四日市市にあるキャンプ場(Camping Specialistより提供)

 キャンプ場の他にも、さまざまな取り組みが全国で行われています。たとえば、沖縄県那覇市では、栄町労働者協同組合が、シェア型書店を運営しています。愛知県阿久比町では、アメニティ工房労働者協同組合が、自分たちが栽培したイタリア野菜を使ってイタリアンレストランを運営しています。奈良県天理市では、ヤマノベコモンズ労働者協同組合が、古墳をテーマにした古民家宿の「cofunia(コフニア)」を運営しています。このように、労働者協同組合の事業内容は多様化しています。これからも、副業・兼業の人たちが集まることにより、組合員一人ひとりの得意分野や強みを活かしたアイディアが次々と生まれ、新たな仕事づくりへとつながっていく可能性が高いといえます。

 一方、資本主義が生み出すさまざまな課題を、どこか遠い世界の話でなく、自分自身の身近な問題として捉え直す人たちも増えています。そうした問題意識に共感し、フラットで対等な関係性を築ける仲間と共に、課題解決に挑戦してみようという思いによって、新たな労働者協同組合が生まれるケースもあります。
 たとえば、労働者協同組合キフクトは、神奈川県を拠点に、戸建て住宅の庭園設計や施工、手入れなどの造園業を担う協同組合で、2023年4月に法人格を取得しました。キフクトの組合員は、近年の新自由主義が共同体の解体を加速し、格差の拡大と個人の社会的孤立を引き起こしていると感じ、コミュニティ再生の一環として、斎藤幸平さんが提唱した「コモンの再生」の実践として、労働者協同組合を設立しました。

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キャプション:キフクトの仕事風景(キフクトより提供)

▶︎労働者協同組合「キフクト」
 https://kifukuto.com/

 労働者協同組合鮭酒造は、千葉県多古町を拠点に、米作り、酒造り、蔵造りをする協同組合で、2024年11月に法人格を取得しました。代表の大橋誠さんが、斎藤幸平さんの著書『人新世の「資本論」』に出会い、経営者が労働者を使うことについて疑問を投げかけるところからスタートしました。鮭酒造は、現代社会において失われてしまった豊かさである「自然」「実感」「自治」「仲間」を、酒造りを通して取り戻すことを目的にしています。

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キャプション:2025年1月から造られた日本酒(筆者撮影)

▶︎労働者協同組合「鮭酒造」
  https://salmonbre.official.ec/

 労協法ができた今、労協法人のみが労働者協同組合であるかのように思われてしまう恐れがありますが、他の法人格であっても、そこで働く人々が所有し管理する協同組合を実践していれば、それは労働者協同組合です。次号では、このことを踏まえて、労働者協同組合の運営において大切なこと、運営の課題と今後の可能性などを、「みんなでつくる協同組合」という観点からお伝えします。

参考文献

  • Mary Mellor, Janet Hannah and John Stirling(1988)Worker Cooperatives in Theory and Practice, Open University Press , p.x.(佐藤絋毅・白井和宏訳(1992)『ワーカーズ・コレクティブーその理論と実践』緑風出版。)
  • 厚生労働省(2025)「多様な働き方を実現し、地域社会の課題に取り組む労働者協同組合」。
  • 松本典子(2025)「『市民活動としての労働者協同組合』への支援可能性」『生協総研レポート』103号、52〜57頁。
労働者協同組合とは何か―みんなでつくる協同組合の実践(上)駒澤大学経済学部教授松本 典子まつもと のりこ