Web 共済と保険2025年7月号
創立50周年を迎える全国自動車共済協同組合連合会(全自共)
会長 村瀨 公一郎 氏にインタビュー
2025年8月に全国自動車共済協同組合連合会は、創立50周年を迎えます。
これを記念して、会長の村瀨 公一郎氏に①組織について、②理念や大切にしていること、③創立50周年を機に取り組んでいること、④事業運営において特に注力していること、⑤国際協同組合年または持続可能な開発目標(SDGs)への貢献に関する取り組み、⑥未来に向けた想いやメッセージについて伺いました。(文責:編集部)
本企画では今後も会員団体へのインタビューを通じて、共済団体の理念や取り組みを紹介していきます。
1.組織について
(1)体制と規模
全国自動車共済協同組合連合会(以下、「全自共」)は、北海道から沖縄県まで、全国の中小企業者などに自動車共済および自動車損害賠償責任共済(以下、「自賠責共済」)を提供する全国5地区(北海道・東北・関東・中部・西日本)の「自動車共済協同組合(以下、「会員組合」)」と、全自共と共同で自動車共済を元受する「全日本火災共済協同組合連合会(以下、「日火連」)」を会員とする全国団体です。
全国5地区の会員組合の共済事業の実績は、2025年3月末現在で、自動車共済は契約台数545千台、共済掛金約265億円、自賠責共済は契約台数254千台、また、日火連との共同元受事業は共済掛金約11億円(本会分担分)となる見込みです。新型コロナ禍以降の活動再開を経て、平常化した現在は、安定した業績で推移しています。
自動車共済事業の運営の特徴は、共済商品の研究・企画・開発、組合員・共済利用者のみなさまへの共済商品の提供、事故対応のサービスなど、一連の業務を全自共と各会員組合が一体となって実施し、よりよい共済商品を提供している点にあります。
また、どの会員組合の加入者でも同じ共済商品や事故対応などのサービスを利用できる全国ネットワークを構築していることが強みであり、特徴といえます。
この全自共と各会員組合の一体的な事業運営は、相互の深い連携体制と信頼関係のうえで実現できるものであり、このことが自動車共済事業の盤石な基盤につながっています。
(2) 創立から現在までの変遷
私たち全自共は、今年で創立50周年を迎えます。
全自共は、自動車共済事業の長期的見地からの指導方針の確立、共済商品の調査・研究、事業方法の統一化、再共済制度による危険分散を図り、自動車共済事業の健全化に貢献するため、1975年(昭和50年)5月に創立総会を開催し、同年8月に通商産業大臣の認可のもとに設立されました。
創立当時は、中小企業のみなさまを主たる利用者として自動車共済事業を実施していた東北、関東、九州の各自家用自動車共済協同組合を会員組合としていました。その後、北海道、中部、近畿の各組合の加入により、自動車共済事業の全国ネットワークが構築されました。さらに、全自共と日火連の自動車共済共同元受事業の開始に伴い日火連が加入したことにより、現在の体制になりました。
2.理念や大切にしていること
全自共と会員組合が大切にしていることは、「中小企業者などの共済利用者のみなさまの自動車の保有、使用または管理に必要かつ適切な保障の提供」、「よりよい共済商品をより安価な掛金でお届けすること」です。
また、自動車事故の際の被害者保護や事業・くらしの回復などに対するサポートは、私たちの真価が問われていると認識しています。
自動車共済制度の普及・推進とともに、会員組合による自動車共済事業が健全かつ安定して運営されることが重要だと考えております。そのため、全自共では、会員組合が自動車共済事業によって負う共済責任の分散と共済金のお支払に万全を期するため、会員組合がお支払いした共済金の全額を再共済金として会員組合に補填する「100%再共済制度」を実施しています。
3.創立50周年を機に取り組んでいること
創立50周年を迎える2025年度は、自賠責共済のシステムの刷新対応が本格化します。現在は、自賠責共済を取り扱う全自共、全国5地区の会員組合と共済代理所では、全自共および会員組合の独自のシステムを利用しておりますが、今後は、損害保険業界で標準的に利用されている「e-JIBAI」システムを導入します。あわせて自賠責共済(保険)契約の引受・管理における業界共通のシステムを導入します。これにより、自賠責共済の加入手続きの電子化と共済掛金払込のキャッシュレス化を実現します。全自共では、今後も共済利用者および共済募集者のみなさまの利便性を高めるため、引き続き鋭意尽力してまいります。
このような取り組みは、全自共と全国5地区の会員組合が一体となり、システムの共同開発・利用を可能とすることで、システム運用体制の合理化等を実現し、自動車共済の事業運営において、グループ全体としての事業費削減等の効果をもって私たちの使命である「よりよい共済商品をより安価な掛金でお届けすること」につながっていきます。
創立50周年の記念事業としては、大きな記念行事や祝賀会を企画するのではなく、定例の共済加入推進や事故処理における成績優秀者(会員組合、共済代理所、個人)への表彰に加え、これまでの事業運営に貢献していただいたみなさまに感謝の意を込めて記念表彰を行います。このような取り組みを行いながら、みなさまと一緒に創立50周年をお祝いできればと考えております。
そして、これからも会員組合や組合員ほか関係機関等のご支援をいただきながら、大きな変化の過程にあるモータリゼーションに対応し、組合員たる中小企業者・共済利用者のみなさまの期待と信頼に応え、自動車共済事業のさらなる発展に尽力してまいります。
また、この機会にあたり、これまで全自共、会員組合など自動車共済の業務を支えていただいた諸先輩方、役職員のみなさまに感謝の意を表します。みなさまの支えがあったからこそ、この記念すべきときを迎えられたことは、これから先の60周年、70周年、100周年と常に忘れてはならないことだと思います。
4.事業運営において特に注力していること
全自共の事業運営においては次の3点に注力し、会員組合等の円滑な事業運営などに役立てることとしています。
(1)コンプライアンスと組合員・利用者等の声を重視した事業運営
全自共では、コンプライアンスを重視した事業運営および意識の醸成を実践しています。一例として、全自共と5地区の会員組合の内部監査は、全自共および各組合の相互連携のもと、その役職員を内部監査役として相互に派遣して内部監査を実施する態勢としています。これによって相互牽制機能を発揮するとともに、他の組合等に派遣される内部監査役は、他の組合等におけるコンプライアンスの実践内容などを参考に自組合の実務に活用することにつなげています。
このほか、全自共では、毎月、コンプライアンス委員会およびリスク管理委員会を開催し、コンプライアンス態勢の管理、意識の醸成等に役立てているほか、お客さまからの声などに対する協議等を実施しています。
お客さまからの声などは、自動車共済の成長のヒント・教材と受け止め、会員組合とともに連携して対応することとしています。このことは、極めて大切な取り組みと考えています。
(2)人材育成による能力向上
全自共では、良質な共済商品やサービスを、会員組合を通じて組合員・共済利用者のみなさまに提供するため、全自共および会員組合の役職員に対し、常に成長の過程にあることを意識した研修事業を実施することにしており、会員組合と相互に連携し、時代の変化に即した複数年度にわたる研修実施計画を策定しながら実施しています。
主な研修は、経営者およびその候補者の能力開発と資質の向上を図るための「経営者等研修」、医療に関する損害調査の高度化を図り、医療費調査のエキスパートや損害調査実務の指導者を育成するための「医療費専門研修」、車両損害の見積業務に精通したプロフェッショナルを育成するための「車両見積専門研修」の3つの研修です。
いずれの研修も、組合員・共済利用者のみなさまに寄り添った対応などに役立つよう、実務を意識した内容で構成することとしています。このほか、諸課題に応じた研修会・講演などを随時実施しています。
(3)自動車産業の変化等への対応と利用者利便性の向上
常に変化の過程にある自動車産業の動向は、自動車共済事業の運営にも少なからず影響します。適時・適切に対応するためには、不断の情報収集・研究やその時勢に応じた自動車共済の企画・開発などを通じて、自動車共済をアップデートすることが重要です。そのため、直近では、2025年1月に自動車共済制度の見直しを実施しましたが、今後も適時実施することで、組合員・共済利用者のみなさまの利便性の向上などにつなげてまいります。
具体的には、2025年1月の見直しでは、自動車共済のロードサービス(救援)においてスマートフォン等を利用した救援要請システム(クイックナビ)を導入しました。これは、ロードサービスを要請する際、従来の電話による救援要請に代えてスマートフォン等の情報端末により救援要請を完結できるシステムで、簡便な利用方法であるほか、電話の混雑時にもその影響を受けずに救援要請を行うことができるなど、共済利用者のみなさまの利便性向上に寄与するものとなっています。さらに、先述のとおり、新たな自賠責共済システムの導入を計画しており、これにより共済利用者や共済代理所のみなさまの利便性の向上を図ってまいります。
5.国際協同組合年または持続可能な開発目標(SDGs)への貢献に関する取り組み
SDGsの考え方である「誰ひとり取り残さない。(No one will be left behind)」は、私たちが目指す、組合員・共済利用者、自動車事故被害者のみなさまに寄り添った対応や、よりよい共済商品をより安価に提供することと、目指すゴールは共通しているものと思います。
私たちは、自動車共済制度の普及・推進と組合員・共済利用者、自動車事故被害者等のみなさまとの接点を通じて、これに寄与することができるものと考えています。
また、会員組合では、共済代理所と連携して安全運転講習会を開催するなど、交通事故の防止に役立つ取り組みを実施しています。これは、交通事故が発生したときには、その解決や経済的損失の復旧などが大切ですが、なによりも交通事故が発生しないことが重要という考えによるものです。
さらに、共済金を受け取るみなさまへの補償を確実に実行するため、リスク管理を徹底するとともに、全自共の再共済制度等を活用し、会員組合における共済金のお支払に全く懸念が生じない事業運営体制を維持継続することにより、会員組合の持続可能な事業運営にも貢献しています。
6.未来に向けた想いやメッセージ
これまでの歩みを顧みますと、自動車共済事業を取り巻く情勢は、保険業法の改正、中小企業等協同組合法の改正、生・損保の相互参入や経営統合、外資やダイレクト系保険会社の参入、商品・掛金(料率)の自由化、ブローカー制度の導入、カーシェアリングの普及などの環境変化により、自動車共済(保険)市場は競争の激化や日々激しい変化の過程にあり、今後もより顕著となっていくものと考えられます。
また、創立当時とは比較にならないほど現在の自動車は高価であるとともに技術の進歩も目覚ましく、自動車の運転の主体が人からクルマに移って自動運転が実現可能な段階となっています。私たちも自動車共済(保険)市場の変化や自動車に関する技術の進展などに関する調査・研究等を積極的に推進するなど、自動車共済も日々成長、進化の歩みを止めてはならないと強く感じています。
さらに、組合員・共済利用者のみなさまの声を受け止めて、イコールパートナーとしての共済代理所のみなさまとともに会員組合・全自共が一体となった事業運営を一層推進し、全国の中小企業者たる組合員や共済利用者のみなさまに「あんしん・ゆとり・たすけあい」の自動車共済商品を提供するため、これからも不断の調査・研究、企画・開発など、事業の推進に努めていく所存です。
これまで以上に自動車共済が中小企業者などのみなさまに普及し、自動車事故の被害者救済といった社会的使命をなお一層果たしていくことが、次の50年に向けた重要な取り組みだと考えています。
今後も全自共および会員組合等が相互に連携し、特徴ある全国ネットワークによる自動車共済事業を展開するとともに、変化の時代に的確に対応した事業運営を行ってまいりますので、ご期待いただければと思います。
【プロフィール】
全国自動車共済協同組合連合会(全自共) 会長 村瀨 公一郎 氏
職歴:
平成14年5月に西日本自動車共済協同組合(西自共)の理事に、以降、西自共の副理事長を経て平成30年6月に西自共の理事長並びに全自共の理事を歴任。全自共の副会長を経て令和4年2月より現職。
<その他の職歴>
・(有)ダイトウ消毒において昭和56年6月代表取締役。
・自家用自動車協会において昭和58年4月早岐地区会長、以降、平成2年4月長崎県常任理事、平成21年3月長崎県会長。
・レンタカー協会において昭和60年4月長崎県会長および九州地区副会長。
・指定自動車学校協会において平成3年5月長崎県会長、以降、平成17年5月九州指定自動車学校連合会会長、同年7月全日本指定自動車教習所協会連合会副会長。
・交通安全協会において平成20年4月長崎県高速道路交通安全協議会副会長、平成25年11月長崎県理事長。
・安全運転管理協議会において平成25年11月長崎県会長。
・(有)佐世保大塔自動車学校、(有)ファーストイン早岐、(有)グランドファーストイン佐世保において平成29年6月代表取締役会長。
受賞歴:
平成14年1月 警察庁長官・全日本交通安全協会会長表彰(交通栄誉賞:緑十字金章)
平成16年7月 警察庁長官表彰(警察協力章)
平成16年11月 全国指定自動車教習所連合会会長表彰(交通功労)
平成17年10月 九州運輸局局長表彰
平成21年7月 長崎県警察本部長章(交通安全功労)
平成21年8月 九州管区警察局長章(交通安全功労)
平成22年11月 旭日双光章
令和 5年10月 中小企業庁長官表彰(西日本自動車共済協同組合創立50周年)
座右の銘: 「心に清く」
【事業概況】
全自共 全国自動車共済協同組合連合会 | |
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根拠法・所管 | 中小企業等協同組合法・経済産業省(中小企業庁) |
設 立 | 1975年(昭和50年)創立 |
事業内容 | 会員組合の行う自動車共済および自賠責共済の再共済事業。会員組合に対する指導・連絡・調整等。自動車共済共同元受事業。 |
取扱共済 | ・自動車再共済 ・自賠責再共済 ・自動車共済(共同元受) |
事業規模 | 自動車再共済掛金約148億円、自賠責再共済掛金約25億円、自動車共済掛金約11億円(2024年度見込み) |
特 徴 | 相互扶助の精神にもとづいて、中小企業者などのみなさまが保有する自動車の所有、使用または管理に起因して発生する事故による経済的損失を補てんすることを目的として、会員組合による自動車共済事業および自賠責共済事業が行われている。 全自共は、会員組合が行う事業によって負う共済責任の分散と共済金の支払に万全を期すために再共済事業を行っている。 |
資料:当協会作成「日本の共済事業―ファクトブック2024―」から作成。事業規模は全自共から提供。